リサーチャーとは?
「あなたはリサーチャーになればいい」ーー。十数年前、まだ東京で編集者をしていた頃、ドキュメンタリー番組制作で数々の賞を受賞し、後にノンフィクション作家になられた方にいわれた。初対面だった。当時の私は、とにかく調べ物ばかりしていて、永田町の国立国会図書館によく通い、果てはロンドン郊外のキューやワシントンDCのNational Archivesを訪れて手書きの一次資料に感動するようなことをしていた。氏はそんな私のマニアックさを見抜いていたのだろう。「あなたはリサーチャーが向いている」といった。(read more...)
「リサーチャー」。映像関係では不可欠な専門職であるけれど、出版界では「調べもの」は著者自らあるいは編集者が基本的にはするもの。そういう認識があったので、せっかくの氏の提案に具体的なイメージが湧かず、「◯◯に向いている」といってもらえるのは何歳になっても嬉しいものだなとお言葉だけをありがたく受け取った。
その数年後、大学院でメディア・コミュニケーションを学ぶため渡英した。そこで直面したのが「Social Research(社会調査)」の壁である。元々が「超・文系」(国文科卒→編集者)で英語が得意とはいえず、また「Social Science(社会科学)」を基礎から学ぶ必要があり、大学院の前にカレッジで1年間学び、ディプロマを取得した。
英国はリサーチの本場。「Social Research Methods」を叩き込まれなければ大学院に入っても歯が立たない。理論・調査・情報分析をカバーしていることがスタートラインだ。海外から集まった留学生は若者が大半だったが、なかには社会人経験者もいて中東のITエンジニアから「これからのビジネスはStrategy(ストラテジー)だ。お前もそっちを専門にしろ」といわれたりもした。そう、「リサーチャー」にはマーケティングリサーチの従事者も含まれる。
大学院に入学し、修士論文に追われる日々が始まった。編集者時代よりも正直何倍もしんどい”魂が半分、口から出て”、”白目を剥く”ような体験だった。そんな毎日のなかで「リサーチャーって研究者だよな」と根源的なことに気づいた。ちなみにロングマン現代英英辞典では'someone who studies a subject in detail in order to discover new facts or test new ideas'とある。
海外取材が豊富なノンフィクション作家の氏が私にいった「あなたはリサーチャーになればいい」。そのリサーチャーとは「何者」にあたるのかはいまもわからないが、リサーチャーの存在意義が’Discover new facts'(新しい事実の発見)、'Test new ideas'(新しいアイデアの検証)であるならば、分野を問わず幅広い領域で生涯「リサーチャー」であることを目指していきたいと思うのだ。